私は映画やドラマも良く見る。私の場合、知性が際立つアメリカ物、世の中の仕組みや人間関係における上下関係、感情のひだを細かく表現出来ている韓国歴史物が好きだ。数は少ないが日本も面白いものがある。ヨーロッパ系では線がぼやけている物も多く(日本も多い)、中国物はストーリーが雑で余り好んで見ない。中国の「三国志」を見るより韓国の時代劇をみる方がリアリティも高く、よっほど参考、勉強にもなり面白い。映画の場合は2時間と言う時間枠内での表現になるのでドラマに比べ、どうしてもスートーリー、表現が雑にならざる得ない。日本のドラマも11話と言う枠でアメリカ(30話×複数シーズン)、韓国(60~80話がざら)と比較すると極端に少なく表現が雑になる。加えて言うと国民性や制作費の関係で世界が小さい、狭すぎる印象が拭えない。ストーリーも単純な物も多く3分以内で筋を説明できるものも大多数だ。その中で数は少ないが面白い物が出ているのは評価に値するであろう。そう言えば日本では複数のストーリーが同時進行しそれらがもつれ合い絡み合い・・・と言う物が極めて少ない。ここまでは良いのだが日本のリアル系で、私が白けてしまうのは物事が簡単に都合よく、上手く行き過ぎる、成功し過ぎるからだ。
韓国時代劇ドラマでは困難・苦難につぐ困難・苦難・災害・障害。そればかりの連続。見るのにもエネルギーがいるほどで、そこからいかに成功に導くかと言う過程が重視されている。テレビの影響力は多大だ。当然、国民性に意識の違いも出てくる。日本の結果オンリー・ド盲目的判断に一役買っているかも知れない。ハッピー・エンドのアメリカはノンフィクションの作り物でも実に面白く話をストーリー化させる事に長けている。筋が読めても面白さを感じさせてくれる。順番に次々困難が降り注ぎ、実に都合よく簡単に成功して行く日本リアル系ドラマを最近見た中で、表現、味わいの違いで印象に残った2作の違いを検証してみよう。一つは「陸王」。これは見そびれてしまった。しかし、正月に再放送が行われ鑑賞することが出来た。阿部寛氏主役を演ずる「下町ロケット」はリアルタイムで見たが、J・COMオンデマンドの三上氏主役を演ずる「下町ロケット」の方が面白かった。
「陸王」は100年続いた役所広司氏率いる老舗のたび製造「こはぜ屋」が時代の流れで経営危機を迎え、新規事業のスポーツ(ランニング)シューズの製造に挑戦して行く様を陸上競技・一人のランナーの人生と重ね合わせ描いた物である。やはり、物事、都合よく行き過ぎる面が強調されたが11話内で描く題材としては適当量で、それぞれの立場での人の心の葛藤、心の移り行く様等の表現が上手く、感情移入も出来たし、ストーリーが読めても泣ける部分も数あった。このドラマを見ていて思い出したのは 日本国民が表向きは一つに団結しアメリカと戦った太平洋戦争時代であった。馬鹿でもアホで何でも一つの事に一致団結・一途に愚直なまでも突き進んで行った事だ。これは、日本の「美徳」とも言えるものであろう。上手く行き過ぎた面にシューズ底の素材(世界で一つ)の特許を製造出来ない企業に使わせ続けたり(ここで使用権を他社に譲れば物語が終ってしまうが・・)、ランナーがマラソン競技の土壇場でスポンサー契約を反故にし「陸王」(シューズ名)に履き替えた事等あるが(ここで陸王を履かないと最後のハッピーエンドに繋がらない)、たび屋の社長が生産機械の火災破壊による「陸王」製造継続不可能(資金難による設備投資不可)から、大手吸収の話を断り自立を目指した経緯は見応えがあった。私の中では一番、肝。感動的なシーンで気持ちも乗ったが、銀行融資も受けられず現実的には明らかに自滅への道を辿る事がはるかに多い。
この社長は自分の卓越した能力で、社員を引っ張って行くと言うワンマン・タイプではない。見ていて社長のヒットは新素材の靴底をたびにも流用した事である。この社長の優れた所は社員の人心掌握、有能な人材を社内に引き入れた事。そして、女性受けする様な(事実社員は殆ど女性)社員の声に耳を傾け、気持ちを汲み、皆を真摯に一枚岩に導き共通の目的である陸王の製造・販売に向かわせたところであろう。可愛い性格、純粋で嘘が無く甘く、適当に頼りないところも社員の自主性を奮起させるのに良い方向に働いた。美しく、日本受けするが現代でははよっぽど自分に余裕が無いと取れない方策と共に時代の風潮で消えかかっているものである(昭和時代に似合わないアメリカナイズを全国的に各企業がこぞって取り入れを行った)。ドラマとしてはそんな利益至上で働く人々の心がないがしろにされる現代の風潮を視聴者に一考させる面においては、現実離れしているが成功だと思う。ちなみに俳優ではないテニス界・世界の松岡修三氏は日本オリンピック選手の技術をインタビューで世界に大暴露し続ける行為は何とかして貰いたいが、「陸王」出演における演技は良く、様になっていた。
さて、案外話題に上る「下町ロケット」だ。阿部寛氏社長演じる佃製作所社長は「陸王」のこはぜ屋社長とは対照的で社員をグィグィ引っ張って行くタイプ。日本農業の発展と言う高い志、物作りに対する情熱、プライドの高い技術屋社長である。このドラマは佃製作所と言う下町工場がロケット・パーツ、農業用トラクターのEg、トランスミッション、無人トラクター等農業機械の製造・販売、日本の農業問題、ロケット等の最先端技術の挑戦、家族問題、等を企業競争・癒着・乗り換え、他を通し描いた物である。これら一つでもドラマになる様な題材を11話の物語で盛り過ぎましたね。こうなると、様々な問題は当然出て来るので、それに対し簡易にクリヤーさせ、肝心の人間のハートを描いている間も無く状況をパズルの様に並べる様にドンドン進めて行くしか、まとめる方法がなくなる。一人の人間の思考パターンはそれぞれワンパターン的、随分、雑で物語としての面白みに欠ける。人間の心はもっともっと複雑で面倒臭く厄介なもので、その反面(応えるかどうかは別として)簡単なものでもある。
現実ではロケットパーツの供給を柱に企業存続は成り立つ物では無く同時に新規分野での製品開発実施など論外に近い。企業ウォッチ、表現が浅い。とっくに潰れているケースの企業だ。私の目には題材は多岐に渡るが実に内容が薄く、浅いものに映った。ストーリー内での成功もまったく一緒に喜べず感動も得られない。失礼だが本職ではない出演者の演技の不味さも白けに拍車をかけた。それでも見てしまうと言うのは技術系の企業ドラマだったからだ。最終回では消化不良で読み通り。スポンサー農業機械クボタのCMがドラマと見間違えるタイミングで出てきたり、帝国重工の大型トラクターが見事にぶっころんだり、センサーエラーで案山子を轢いたり、吉川晃司さんは確かに格好良いが何故、あの歳のサラリーマンで逆三角形の部長がいるのだろうか等々。いっそコミカル・タッチにしてしまった方が良かった様な気もする。時間制限が厳しいのに余計なカットも目立つ。正月に続きが放映されるが、企業対決で佃が勝つ事は容易に想像がつく。推移や話にどうケリをつけるか見てみる事にした。